天国のひろくんへ

 ひろくん……。突然、深い悲しみに見舞われたあの日から、いつの間にか23年の月日が流れました。
 ひろくんが高校3年生の冬、間近にクリスマスを控えて、「おっかちゃん、今度家でクリスマスやっていい?」 「うん、いいよ」 「じゃあ、友達呼んで来るから、その時おでん作って!」
 楽しみにしていたそのイブが、まさかひろくんのお葬式の日になるなんて……。

 警察署から「今、事故で亡くなりました。」って連絡を受けた時、お母さんは腰が抜けました。そして、背中に羽の生えたひろくんが、昇って行くのが見え、早く引き止めなければと本気でそう思いました。
 駆けつけた警察署の駐車場で、横になっているひろくんを見て、必死に耳元で「ひろくん! ひろくん!」と、あなたの名を叫びました。何の反応もなく、目を閉じたままのひろくんを抱っこして、家に帰って来て、このままアルコールに漬けてでもいいから、あなたを離したくないと思った。
 だから、火葬の話をされた時が、一番つらかった……。

 天国に見送った後も、しばらくは、ただ泣くことしかすべがなく、気がつくと遺影の前に座り込んで、悦ちゃんに「お母さん、子供はお兄ちゃんだけじゃないんだからね。家族みんなで頑張ろう。」って言われて、我に返ったの……。
 理想の高校生像を求め過ぎて、「おっかちゃんが考えてるような高校生、今時いねえよ。」って、反発されたこともあったけど、私の肩をたたきながら、「俺、働いておっかちゃんに、楽させてやるからな。」って言ってくれた、優しいあなた。
 深い悲しみの淵で、ここまで生きてこられるとは、夢にも思わなかったけれど、今では、悦ちゃんも友ちゃんも、それぞれ家庭をもち、お父さんとお母さんは、5人のじいじとばあばになりましたよ。
 折に、悦ちゃんと友ちゃんが「これでお兄ちゃんがいたら、どんなだったろうね。」って話しています。
 キャプテン翼に憧れ、サッカーに明け暮れた中学・高校生活、あのマラドーナを見に行った思い出。ひろくんのサッカー好きの血は、友ちゃんを通して、ちゃんと次の世代に引き継がれ、今ではあなたの甥子になるあっくんが、現在サッカー部で活躍中ですよ。その姿が、あの頃のひろくんと重なって見えます。

 長い年月が流れた今も、節目にお参りに来てくれる友達や、ひろくんが引き合わせてくれたのかと思えるような、新しい出会いに、あなたを見つけ、癒されています。
 四季の移ろいも、目に入らずに過ごしていた時、「桜が咲いたねぇ。」と声をかけてくれた親友。その言葉に顔を上げると、本当に、桜がきれいに咲いていました。
 桜が咲いてたんだ……私も頑張らなくちゃ……と前向きになれたのは、3年忌を過ぎて迎えた春の日でした。
 ひろくん、いつも千の風になって、みんなを守ってくれてありがとう。お母さんもお役目が済んだら、ひろくんのところに行くから、もう少し待っててね。  年老いたおっかちゃんより

次の作品へ