ボクの命を拾ってくれた
お姉ちゃんへ

 「きっと帰って来る」と信じて、今日もまた玄関まで行ってしまったよ。
 小さい頃に、豊平川(とよひらがわ)の土手の草むらの中で、ガタガタと震えていたボクを抱きしめてくれた時から、ボクは、あったかいお姉ちゃんの温もりの中で、大きくなれたんだよ。近所の罵声からも病気からも、ボクを守ってくれて、いつもいつも幸せだったよ。

 暑い日が続いた8月のあの朝、「マロン! 行ってくるからね」と苦しそうな顔で出かけたまま、今日になっても、ボクの名前を呼んでくれないじゃないか。
 お姉ちゃんがあの日の翌日に、天国に行ってしまったことなど、ボクは理解できるわけないよ。毎日さみしくて、さみしくてね。
 この頃お母さんが、もうすぐお姉ちゃんの1周忌だね、とつぶやきながら泣いている時、家事を失敗している時、少しずつ、もうお姉ちゃんは帰って来ないのだなぁと思うようになってきて、かなしいよ。
 朝夕の散歩は、不自由な目でお母さんが連れて行ってくれるけど、ボクが引っぱるから大丈夫だよ。

 ある日、お姉ちゃんと走った、散歩コースの途中にある、小さな神社の前で、ボクがいつものように止まったんだよ。その時、お母さんは気づいたよ。
 お姉ちゃんが自分の不治の病に、一縷の望みをかけて祈っていたことを。でも、願いは届かなかったんだね。

 札幌にも遅い春が来て、やっと桜が咲いて、もうすぐアカシアの季節になるよ。
 お姉ちゃん! 桜の花びらや、アカシアの甘い香りになって、いつもボクのそばにいてくれるよね。夏は爽やかな風になって、秋は青い空の色に染まって、冬は冷たい風でもいいよ。
 でも、春には優しい風になって、木々の芽にも〝春だよ〟って呼びかけてね。

 ボクは、お母さんの目にはなれないけれど、お母さんの心は、ボクが元気にするからね。だからもう、病気と戦っていた、つらい顔はしないで、いつも笑ってボク達を見守っていてね。
きっとだよ! ボクも元気になるからさ。
雅代姉ちゃんの愛犬のマロンより

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