「バイバイキーン」と書き遺した娘へ

敬(けい)ちゃんこんにちは。

 五年振りに貴女宛の手紙を書いています。それまでは毎日のようにメールをやり取りしていたネ。敬子(けいこ)は真白でおしゃれな携帯電話から、私は、自宅にあった大きなパソコンから。敬子(けいこ)が送信して来る時間は、子供達を寝かし付けた十一時過ぎと決まっていたネ。毎朝パソコンを開けて見るのが私にとって何よりの楽しみでした。

そのパソコンが流されたり、自宅が津波でメチャメチャになったのを見てもあの当時は何も考えられませんでした。貴女の入院先から自宅のかたづけに何度か通って疲れたなあと感じる事があっても、敬(けい)ちゃんの快復を願う事に必死でした。

 あの災害は重篤な状態の続く敬子(けいこ)にも大きなショックを与えてしまいましたネ。貴女の結婚生活の十二年は順風満帆の日々で多くの友人知人から羨ましがられた程でした。

それが、突然の頭痛で自分の車で三才の幼児を連れて病院での診断が脳腫瘍で即入院‼駆けつけた誰もが信じられませんでした。医師は、CTの画像を見ながら、何のためらいもなく「余命三ヶ月です」瞬間ガタンと音がして敬(けい)ちゃんは、気を失って椅子からくずれ落ちてしまいましたネ。その後お父さんも私もどうやって病室に戻ったのかわかりません。何度も何度も「私だけどうして・・・。悔しいっ‼」三十七才の誕生日を過ぎたばかり。三人の可愛い子供達、最愛の夫君。私達にとっての初孫となる瞳(ひとみ)ちゃん。この春から高校生です。前期の一次試験で早々と第一志望校に合格したのよ。良かったね。敬(けい)ちゃんの喜ぶステキな笑顔が目に浮びます。

私達も昨年の四月から災害公営住宅に住まわせて戴いています。新天地にふさわしい陽当りの良い広い、バリアフリーのマンション仕様の部屋です。ありがたいです。

貴方が最期の力を振りしぼって書き遺し、姉が代読したお別れの言葉の中で「ではユッピーちゃんに問題です。アンパンマンの友だちのバイキンマンがみんなにさよならをする時は、なんと言うでしょうか?そうです、バイバイキーンです。ママもみなさまにバイバイキーンです。必ずいつか又会おうね。」

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