惑星

元気でいますか? 空からこの地上はどんな風に見えますか?

 病室に持ち込んだノートパソコンで自分でネット注文してあなたが買った数々のホルスト「惑星」のCD。家に届くと、それらをせっせと病室に運びました。中でもよく聴いていたのは冨田勲の組曲「惑星」でしたね。曲を聴きながら「もうすぐ俺が行くところ」と呟いた時は、どう答えていいのかわからず、苦笑を浮かべてごまかしてしまった私でした。

あの呟きからほどなくして本当にあなたは宇宙へ行ってしまいました。七つの惑星のどこにいるのかな? それとも自由に空間を飛びまわっているのでしょうか?

あなたが逝ってもうすぐ一年になります。食道癌と言われてから一年四ヶ月、六十一歳という早い別れになってしまいました。手術も抗がん剤も拒否、食べ物が通りにくくなってから放射線治療は受けて、少しは食べられるようになったけれど、結局脳に転移して左半身に麻痺が出ちゃったね。

ホスピスに入ってからは症状も落ち着いたし、病院食も食べられたので安心したけれど、急変しちゃったね。急変の前日に「会えて良かった」って言ってくれたよね。それは私も同じだし、今でもあの時の言葉が私の支えになっています。

本当はもっと話したかった。私からもちゃんと“ありがとう”って言いたかった。だけど、私たち、たくさんしゃべった夫婦だったよね。駄洒落も冗談もいっぱい言い合ったよね。楽しい思い出は尽きません。

五月に二人でよく行った小樽に行って来ました。埠頭に行くと雲ひとつない空が広がっていました。あの空から見守ってくれているんだよね。私もいつか行くから、それまで待っててねと呟くと涙が溢れました。その後はやはりよく行った昭和八年創業の古い喫茶店「光」へ。薄暗い店内では誰にも気づかれずに泣くことができたけれど、あんまり泣いてばかりいてはダメだよね。街中も二人で散策しているみたいでした。いつもそばにいてくれるんだよね。

カラオケボックスに行ったら必ず歌う曲が増えました。平原綾香の「ジュピター」。この曲があなたに届くようにとマイクを握ります。これからもずっとそばにいてくれると信じて思い出を辿っていきます。またいつか会える日までしばしのお別れ。じゃあ、またね。

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