風のあなたに逢いたくて

「ミオさん、元気にしていますか?」

朝早く庭に出て空を見上げ、様々な形の雲を眺め、緑の梢に向かって呼びかけます。少し冷ややかな朝の空気を感じながら、「ミオ、おはよう」と。すると、ある時は風が大きく木々を揺らし、ある時はかすかに葉先を揺らして、「ママ、大丈夫だよ、ここにいるよ」と私の頬をなでるように、吹いていきます。   

もう十六年も経ってしまったけれど、あなたと私だけの朝の儀式です。自然の移ろい、ことに風の流れにどれだけ気持ちを和ませてもらってきたことか。今朝もあなたに逢いたくて、風を呼び込みます。

ほとんど誰にも知らせずに、千葉の海辺沿いの山の上で家族3人だけで、真夏の風の中、煙となって登っていくあなたを見送りました。家族はお互いの気持ちを察し、言葉少なに日々支え合ってきました。「時が心を癒す」なんて、本当の傷を知らない人が言うセリフと暫くは思っていました。     

確かに三年位経つと、あなたの優しい笑顔と共に過ごした楽しい折々の場面だけが蘇り、少しずつ気持ちが穏やかになってゆくのを感じてきました。

 写真のあなたは、二十代最後のちょっとあどけない位の面影のままで、少しも年をとらないのは、少し寂しいです。短かったけれど、あなたなりの充実した人生だったと思いたいし、そう信じています。     

 あれから、パパは脳梗塞になり十三年が経ち半身不自由のままです。パパがリハビリに頑張ってこられたのも、あなたにいいところを見せ、褒めてもらいたくてのことだとママは思っています。ミオさんがいつも千の風を引き連れて、漂い、時に私たちの肩の上で休み、「いつもそばにいるからね。私の分も生きて日々楽しみを感じて。」と言ってくれているのを感じます。ミオさん、ようやく私たちは「大丈夫」になりましたよ。

青い空に飛行機雲が伸びていく度、空の仕事をしていたあなたが一緒に空へ飛んでいるのを感じ、海にはもう二度と行きたくないと思っていたけれど、魚の生まれ変わりかなと言っていたあなたを思い、海を恨むのは止めにしました。あなたを娘にもったことを、私たちはとても幸せに、誇りに思っていることは今も変わりません。元気でね。ママより、いつも愛を込めて。

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