お母さん、ごめんなさい

お母さんへ

 お母さんが僕の前からいなくなったのは僕が小学校6年生の冬でしたね。それからもう6年が経ちました。思い返せばこの6年間をお母さんに一番近くで見てほしかったかもしれません。僕がどれだけ成長したのかを。

 お母さんがまだ僕の側にいたころ、僕はあまり理想の息子ではなかったことでしょう。行くと約束したスイミングスクールをよくサボり、学校では同級生からよくからかわれ、そして家ではその鬱憤をはらすことさえありましたが、そのたびにお母さんは笑顔で受けとめてくれましたね。こんな僕を置いていくことは、心配性のお母さんにとっては本当に気がかりだったと思います。心配をかけてごめんなさい。

 そしてもう一つ、僕はお母さんに謝らなければならないことがあります。お母さんがいなくなる前日、僕が病室を訪れたのを覚えていますか。僕は病室内のソファで寝てしまいました。そのときお母さんは一緒にいられる時間があと少ししかないとわかっている中で、僕の寝顔を見てどう思いましたか。愛しいと思いましたか。もっと一緒にいたいと思いましたか。寝顔をもっと見ていたかったですか。

 しかし起きた僕は病室にいることに飽きて、「もう家に帰りたい」とお父さんにせがみましたね。お母さんの気持ちをこれっぽっちも考えようとはせずに僕はお母さんを見捨ててしまいました。とても、怖かったでしょう。寂しかったでしょう。悲しかったでしょう。そして何よりも僕に裏切られたような気持ちになったはずです。

 僕は今年、大学生になりました。いちおう世間では有名な大学です。そして、今東京で一人暮らしをしています。一人暮らしは楽しいのですが、ふとしたときに言い表せることができないような孤独を味わいます。そんなときに思うのは僕がお母さんを病室に置いてきてしまったことばかりです。僕の人生で一番、後悔しています。

 あのときのことは許さなくてもかまいません。お母さんにとてもつらい思いをさせてしまったのだから。だけどずっとこれだけを伝えたかったのです。

 ごめんなさい。僕はお母さんが大好きです。